遠い家族の記憶
私が生まれた時
すでに祖父は他界して
その記憶はずっと祖母から幼い私に
語られてきた。
祖母は若くして祖父を病気で亡くしたが
それから再婚もせず
一人で6人の子どもを育ててきた
気丈な女性だ。
そしてそれ以上に
祖父のことを愛していたらしい。
昔の写真を見ると
そこには今の私より若い
精悍な一人の若者の姿がある。
仕事をしていた頃の祖父だ。
祖父は考え方がとても柔軟で豊かだった。
例えば、私たちの財産が
目の前の畑1つしかなかったとする。
そんな時、その畑でいかに稼ぐか考え
がむしゃらに種を植え続けるのではなく、
必要としている人に貸す。
そして人と人を繋ぐことで
収入は結果として入ってくるのだと、
そんな考え方をする人だったらしい。
またとてもおしゃれな人だったのだろう。
祖父の形見の中に
たくさんの宝石があるのだ。
カフスボタンやネクタイピンにあしらわれた
美しい曇りのない自然の宝物。
天然石が好きな私は
それらをいつも大切に眺めていた。
ヒスイの美しいグリーンは
迷った時、悩んだ時
モヤがかかった私の心を
そっと鎮めてくれる。
感情的になりそうな心を
冷静に引き戻してくれる大切な宝石。
祖母から受け継いでいる祖母の記憶と
ヒスイのネックレスを
私も大切に受け継いでいこう。
祖父の生き方も一緒に。
*このストーリーはフィクションです。