秘密の扉(ジュエリーとあなたの物語)
祖母から母に手渡され
そして私のもとへやってきてくれたリング。
クラシックなデザインで個性的な印象だ。
女性らしさというよりは
直線的で男性的な印象のリングだと思っている。
海辺の街で生きてきた女性たちの
強い心の軸が、
このデザインと共鳴したのかもしれない。
私の生まれ育った家は海のすぐ目の前。
早朝は静かな波の音で目覚め、
子守唄すらさざなみだった。
よせてはかえる音を聴きながら
遠い国と繋がる、
不思議な水の世界に想いを馳せるのが私の日課だった。
この街が世界で一番好きで、
離れるなんて考えたこともない。
周りにはカフェもデートスポットもないから
とても静かで、
真っ赤な太陽が海に沈む夕焼けの時間は
特に私のお気に入りだ。
空、海、空気まであたり一面が赤く染まり
海の香りが広がる。
その中にただ1人私だけの世界に訪れたような
そんなとっておきの時間だ。
私の顔も真っ赤に染まる。
初めて母からリングを見せてもらった時
「ダイアモンドってかわいい」
と思った。
身につけて傷がついたプラチナのボディに、
キラキラ輝く小さな宝石。
星?宇宙?
あぁ、そうだ。
夕焼けの海だ。
七色に輝く小さな海は
時折強い赤の輝きを放つ。
内側から輝く光をファイアと呼ぶらしい。
真っ赤に染まる夕焼けの海とファイア。
なんだか共通するものを感じて
愛しさが湧き出てきた。
私の指にはいつもこのダイアモンドが輝いている。
まるであの海をそっと連れてきたみたい。
一息つきたいとき、
嬉しいとき、
あったかい気持ちになったとき、
忙しくて夕焼けの海に向き合う時間がとれなくても、
手元には海に繋がるダイアモンドがある。
ここは私だけの世界にワープする入り口の扉なんだ。
*この物語はフィクションです